ウィリアム・フォークナーの詩学 1930-1936
(著者)諏訪部浩一

判型 | 四六判上製 |
ページ | 495ページ |
価格 | 3,800円(税別) |
ISBN | 978-4-7754-0154-5 |
略号 | |
発売日 | 2008年10月31日 |
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- 解説
ジェンダー研究・文化研究的視点を包摂しつつ、『死の床に横たわりて』『サンクチュアリ』『八月の光』『標識塔〈パイロン〉』を経て、『アブサロム、アブサロム!』を頂点とする、一九三〇年代・中期フォークナーの作家としての成長を、『響きと怒り』におけるモダニスト的達成への自己批評として捉えた21世紀フォークナー研究の金字塔。2009年度清水博賞受賞。
- 目次
序章
第 I 部 社会的関心の深化
第1章 共同体のイデオロギー的機能 『死の床に横たわりて』
第2章 「母」から「父」へ 『サンクチュアリ』
第3章 黒人との出会い 『八月の光』
第 II 部 歴史の重み、そして南部悲劇の臨界点
第4章 現代の寓話 『標識塔〈パイロン〉』
第5章 南部悲劇の臨界点 『アブサロム、アブサロム!』引用文献
あとがき- 掲載情報
■ 東京大学アメリカ太平洋研究 第10号に掲載されました
個々の精緻なキャラクター・アナリシスの説得力、先行研究への目配りの充実など、本書はこれまでに書かれたいくつかの評も示す通り卓抜なものである。しかしそれを真に際立つものたらしめているのは、上記のように、欧米のフォークナー研究の達成やジェンダー研究・文化研究の理論的地平を信じ幅広く渉猟することでそれぞれの人物造形にさまざまな政治的メッセージを読みこんでみせつつ、決してそのような主張それ自体を議論の目的地にするのではなく、むしろそれらの知見や現代思想の領域での成果を積極的に援用し、フォークナーの「小説家」としてのふるまいを統括している原理──つまりそれこそが著者の言う「詩学」である──をこそ示そうとするその強靭な意志に他ならない。(中野学而 東京女子大学)
■ 「アメリカ研究」44号に掲載されました
本書は、一見硬派の近づきにくい研究書のように見えるが、各章はそれぞれ独立して読んでもその文学理解の造詣の深さを堪能できるし、何より、フォークナー作品は難解だという先入観を持っている学生や文学研究者にまずお奨めしたい。(中略)フォークナーの小説は、適切な導入があるとよくわかるだけではなく、それだけ味わいが深くなるのである。(藤平育子 中央大学)
■ 「アメリカ文学研究」no.46 2009に掲載されました
(前略)しかしながら、私にとって最も新鮮であったのは、「アブサロム、アブサロム!」に関する諏訪部氏の批評、とりわけその手法であった。その鮮やかなテクストの解読方法をここで要約し再現することは私の手に余るので、各人が本書を実際に読んで頂くしかない。私自身は、少なくとも私には解けなかった長年の謎が見事に解かれていく現場に居合わせるという興奮を味わったとだけ言っておきたい。(樋渡真理子 福岡大学)
■ 英語年鑑2010年版に掲載されました
一部分著者の博士論文(SUNY,at Buffalo)に基づいた、フォークナー中期(1930-1936)の小説5編の詳細な分析と膨大な先行研究(「引用文献」pp. 460-487)を援用して、小説家フォークナー深化の過程を論証する力作。第1部「社会的関心の深化」では、「死の床に横たわりて」、「サンクチュアリ」、「八月の光」、第2部「歴史の重み、そして南部悲劇の臨界点」で、「標識塔〈パイロン〉」「アブサロム、アブサロム!」が取り上げられる。「響きと怒り」(1929)でモダニスト的達成を遂げた後、1930以降、「社会的関心」が深化するにつれ、フォークナーはモダニスト的詩学に決別せざるを得なかったと著者は述べる。(別府惠子 神戸女学院大学名誉教授)
■ 「英文学研究」第86巻に掲載されました
本書の強みのひとつはその重層性であり、「事態はそれほど単純ではない」とか、「事態はその逆である」といった言い回しによってたたみかけていくような論の運びだけではなくて、ジェンダー研究や文化研究の地層に詩学/文学の地層が重なりあっている。ラカンやジジェクの用語や学説がしばしば援用されるものの、筆者のような無手勝流の人間でも難解なジャーゴンで煙に巻かれることもほとんどなく、前後関係からきちんと理解できるように書かれている。著者のまなざしはその二つの地層を同時に透視しており、そこでは理論を語ることがそのまま小説を読むことに重なりあっている。(小谷耕二 九州大学)
■ 「アメリカ学会会報」No. 170に掲載されました
本邦フォークナー研究が本格化したのは1960年代だったが、本書は半世紀のあいだにわが国のフォークナー研究がどこまで進展したかを示す、ひとつの指標となろう。観念的難解表現がときに顔を出すようで、理解のためには反芻が必要となって読み解くのに時間がかかるが、その苦労を補って余りある優れた研究書。(杉山直人 関西学院大学)
■ 「フォークナー」第11号に掲載されました
この研究書は主としてキャラクター・アナリシスで構成されている。各小説は、新南部や大戦間の社会状況に関する文化史的研究に配慮しつつ、ジェンダー研究を踏まえながら、女性キャラクターと女性キャラクターを触媒として反応する「時代錯誤的な」男性キャラクターの分析がなされ、それらのキャラクター分析が集合的におのおのの小説論となり、研究書総体としては一九三〇年から三六年に掛けてのフォークナーの作家としての成長を跡付けるよう有機的に構成されている。(中村久男 同志社大学教授)
■ 「Web英語青年」2009年4月号に掲載されました
フォークナーについての包括的で徹底的に綿密な研究書である。明快で強い批評的解釈に貫かれた本である。「『響きと怒り』と……フォークナーが三〇年代に書いた作品とのあいだには……批評的〈切断〉が見られる」と著者は言う。(中略)『響きと怒り』への自己批判を論ずる本書が、ある意味『響きと怒り』へのこの上ないオマージュとなっているのは、キャディを登場させないでキャディへのオマージュを書いたフォークナーみたいだなとも感じるのである。(折島正司 青山学院大学教授)
■ 「週刊読書人」2009年1月16日に掲載されました
本書が最も精彩を放っているのは、「彼の作品における女性登場人物達、あるいは彼女達の男性人物達との関係に対して特に注意を払っていくことになる」と宣言されている性差(ジェンダー)の視点からの考察で、「ファム・ファタール」というゆるやかな概念で束ねられる『土にまみれた旗』から『アブサロム、アブサロム!』までの主要な女性登場人物たちーとりわけ、『響きと怒り』のキャディ、『サンクチュアリ』のテンプル、『死の床に横たわりて』のアディ、『標識塔』のラヴァーン、『アブサロム、アブサロム!』のローザーの分析は、啓発的で従来の解釈を刷新するだけの衝撃力を持っている。(田中久男 広島大学院教授)
- 著者紹介
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